短編

行く川の流れは絶えずして
作者:秋里八束様/掲載サイト:想いを束ねて

 やえと誠吉、戦時下から現代まで長きを連れ添った夫婦の半生を振り返る短編です。夫である誠吉の視点で描き出された人生は、決して情熱のほとばしっているような筆ではないのですが不思議とふかく胸に切り込んできます。
 男って、どういうものなんでしょう。わたしにはわからない。もしかしたら、こういうものなんじゃないかと思います。少し口下手で、自分で見つけてきたわけではない花嫁に戸惑っている若い男。また時間は流れ、子供が旅立ったあとの夫婦の静寂に慣れない男。そんなひとの内面を静かに語っておられます。
 この誠吉さんがやえさんを想う気持ちがものすごく深くて、読んでいる間は涙腺がゆるゆるでした。
 ただいたずらに愛の言葉を撒き散らすんじゃなくって、ずっと、死んだあとまでも愛し続ける。姿が見えているとか声がきこえているとかではなくて、その『存在』がいとしいから、死んだあとまでも思いは消えないんだなあ、って。
 これはわたしが勝手に思ったことだけれども、人ってこの世に生れ落ちた瞬間から世界の終わりまで、永遠にちかい時を生きてるんですね。
 身体は朽ちて、もしかしたら魂とか心とか精神的な部分もまったく残りはしないのかもしれないけれど、、『存在』は存在していたという『事実』だから、ずうっと生きつづけるのかもしれない。
……勝手なことばかりすみません、でも、このお話のおかげで、めずらしく心のなかのもやもやが形になったんです。

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